◆病棟◆
「精神病院に入院していた頃のことを描きました。なぜ入院しているのかも解らず、自由に病室から出入もできない、そんな社会問題を知ってください。病棟内の患者どうしで、ドアの下のわずかな隙間から、手紙や詩のやりとりをして、膨大な時間を過ごしていました。
手紙の交換も職員に見つかったら大変なことで、人として当たり前のコミュニケーションも許可されなかった状況を知ってください。病室のドアに鍵がかけられて、ドアのガラスに手を当てて微笑むのが、患者同士の心のこもったあいさつでした。」(由貴記)
◇解説◇
1997年、竹原は医療保護入院となりました。その時の体験をもとに書かれた作品群です。(玲子記)
◆I don't know why I am here◆
「なぜ自分がここにいるのかも解らず、ただ辛かったです。週に一度の主治医との2・3分間の診察で薬が決められ、薬が合わなかったら、また1週間待たなければならない、気休めにタバコをふかし、夜になったら空腹に耐えられず、小灯台にしまってある醤油を飲んでその後、トイレの洗面所で水をがぶ飲みして眠れない夜をすごしていました。眠れないからベッドに静かに座っていたら、看護士が来て私をベッドに縛り付けました。ほんとに薬があわないので、職員の人に話しても、ろくに話も聞いてもらえず、自分の意志では外に出られず、とんでもない所に入れられてしまった、と思いましたが、どうすることもできませんでした。こういう状況があるということを知ってください。」(由貴記)
◇解説◇
保護室での生活は、辛いものでした。病識がない。薬が合わない、眠れない、拘束される、悪循環でした。(玲子記)
◆幻覚◆
薬が合わなくて苦しんだ経験を元に描かれた作品です。
「壁紙の模様が動いて落ち葉のように見えたり、濁流に流されるように見えたり、壁がゆがんで見えたり、落ちないようにベッドにしがみついていました。
私は今まで健康的な美とは違うものを求めていたような気がします。動物は無駄な苦労はしませんから。でも、ちょっとは健康的に生きようかなと思い始めた最近です。」(由貴記)
◇解説◇
この作品は、後に、引っ越した八王子の市営住宅の一階をアトリエにして描いていました。狭い家の中に油の匂いが充満し、描いては吐き、吐いては描いていました。表現したかった内容も壮絶でしたが、制作過程も壮絶なものでした。(玲子記)